お墓を建てる～富山のお墓の研究

　　　　　　　　　　金川　欣二　　　　　　　　

「ばか」　　谷川俊太郎

はかかった
ばかはかかった
たかかった

はかかんだ
ばかはかかんだ
かたかった

はがかけた
ばかはがかけた
がったがた

はかなんで
ばかはかなくなった
なんまいだ

　父が亡くなってからお墓を作った。建てたというのか知らないけれど、ともかく新しくした。

　というのも前のお墓がボロボロになってきたし、御堂の下の方にあって冬になると上の部分が雪で倒れることがあり、あまり気分のいいものではなかったからだ。また、昔は近所の親戚に人に頼んでやってもらっていたが、みんな引っ越していって（過疎化！）石材店に頼まなければならなくなった。

　昔は「生前にお墓を建てると吸い込まれる」などと嫌ったらしいが、最近は「寿陵（じゅりょう）」とか「寿蔵」とかと呼ぶ。めでたいことなのだ。そのため、建立者の名前を朱で書いている。亡くなったら黒にする。

　ペネロペ・ロペスが出た『バルボール』という映画はお墓を掃除するシーンから始まるのだが、自分の墓を先に作ってしまった女性が出てくる。その方がめでたい、という慣習が外国でもあるのだ。

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　お墓を建てることも「喪の仕事」として非常に重要なことである。

　言語学を学んでいる人間としては人間と他の動物を区別するものが言語である、といいたいのだが、記号を使って意志疎通する動物も多いし、霊長類は高度なこともできることが分かってきた。道具を作る動物も多い。社会を作るといっても霊長類には家族の起源がある。人間だけがして他の霊長類がしないことはお墓を作ることである。死者を弔うことである。死んで動かなくなったものとさえ会話しようとする動物なのだ。

　お墓まいりをすると結構、落ち着く。仏文学者の桑原武夫は「展墓」というエッセイの中で、仏壇を置かない家庭に育ち、信仰心は豊かでないというが、「墓まいりは案外好き」と書いている。

　チベットの人は鳥葬だから、お墓がない。「墓」という言葉もないそうだが、おまいりするところがないと日本人には「はなかい」世の中に見えてしまう。

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　お墓というと思い出すのがフランス映画『禁じられた遊び』である。

　敵の戦闘機に両親を目の前で殺されたポーレットという少女が主人公である。両親は自分をかばって亡くなってしまう。そして、ある親切な農家に住むことになるって、その農家の息子・ミシェルと友達になる。ポーレットはミシェルから死んだものは土に埋めるということを初めて知り、廃屋になった水車小屋の中に彼女の小犬を埋め十字架を立てた。墓に十字架が必要なことを知ったのも彼女にとって新知識であり、以来彼女はこのお墓あそびがすっかり気に入ってしまった。

　牛に蹴られて重傷を負い、長男ジョルジュの葬式の日、葬式馬車の十字架がなくなっていた。これはミシェルがポーレットを喜ばすために盗んだのだった。ミシェルは更に教会の十字架を盗もうとして司祭にみつかり、大叱言を喰った。しかしミシェルとポーレットはとうとう教会の墓地まで出かけて、たくさんの十字架を持ち出したのである。

　翌朝、ドレ家に二人の憲兵が訪れ、ポーレットを孤児院にひきとりに来た。ミシェルの必死の懇願にもかかわらずポーレットは連れさられた。雑踏する駅の一角、ポーレットは悲しく「ミシェル」を呼んで、ひとり人々の間を駈け去って行く。

　ポーレットがしたことは「遊び」であるが、まさに「喪の仕事」である。それは子犬だけでなく、両親、そして大戦で亡くなった多くの人に対する弔いである。

　子どもの「遊び」の中に、「喪の仕事」の本質が表現されているという悲しい映画である。

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　最近、「ペットロス」という言葉が流行っている。ペットを亡くした時の悲しみは人を亡くした時と変わらない、ということなのだろう。山口仲美『犬は「びよ」と鳴いていた』（光文社新書）に出てくるのだが、平安時代の『大鏡』には愛犬の法事を説教の名人に頼む話があるという。名人は「この世を去った犬の霊は、いまごろ極楽浄土の蓮（はす）の台の上で、『ひよ』と吠（ほ）えていらっしゃるだろう」と犬の声をまね、ますます有名になったという。

　忠犬ハチ公は駄犬だったという話もあるが、何度も映画になっている（2008年にはリチャード・ギアの映画になるそうだ）。

　寺田寅彦は飼っていた猫が死んだ時、「不思議な事には追懐の国におけるこれらの家畜は人間と少しも変わらないものになってしまっている。口もきけば物もいう。こちらの心もそのままによく通ずる。そうして死んだ人間の追憶には美しさの中にも何かしら多少の苦（にが）みを伴なわない事はまれであるのに、これらの家畜の思い出にはいささかも苦々（にがにが）しさのあと味がない。それはやはり彼らが生きている間に物を言わなかったためであろう」（「備忘録」）と書いた。更に詞を書き、曲も付けて童謡をつくった（「柿の種」）。

三毛（みけ）のお墓に花が散る
こんこんこごめの花が散る
小窓に鳥影小鳥影
「小鳥の夢でも見ているか」

三毛のお墓に雪がふる
こんこん小窓に雪がふる
炬燵蒲団（こたつぶとん）の紅（くれない）も
「三毛がいないでさびしいな」

　ペットを飼う人は飼ったその日から別離を考えなければならない。ヒトよりも長生きをするペットなどはほとんどいないのだから。何度も何度も猫を失ってしまう話に耐える夫婦を描いた長田弘の『猫に未来はない』（角川文庫）にはこんな文章がある。

　ねこをながく飼ってきたひとはこころのどこかでいつもねこがいなくなる日のことを覚悟しているのであり、そして、そうした覚悟をあらかじめ自分で先どりして、いま・ここにいるねこをかわいがることのうちにいっそう混ぜあわせることに熱中するのだ、そんな気がたまらなくするのです。

　魂は神の国に送らなければならない。池澤夏樹の『静かな大地』には「熊になった少年」という感動的な話がある。熊の魂をちゃんと神の国に送らない、トゥムンチという一族に生まれたイキリという名前の少年の話だ。

　でも、イキリの親たちは心正しいアイヌではなく、心がねじくれたトゥムンチの一族でした。
　熊を獲っても、熊の魂をちゃんと神の国に送らなかったのです。
　本当ならば狩人は送りの儀式をして、獲物の魂を手厚く神の国に送ります。
　獲物に向かって、私のところに来てくれてありがとう、自分たちのおなかに入ってくれてありがとう、とお礼を言います。
　それから、その動物の魂が無事に神の国に帰って、またいつか別の熊の身体に入ってやってきてくれるよう心を込めて祈ります。
　それがアイヌの正しいやりかたです。

　死者はきちんと弔わなければならない。内田樹は韓国ドラマ『冬のソナタ』に触れながら『村上春樹にご用心』（アルテスパブリッシング）で次のように書いている。

　正しい葬礼を受けていない死者が服喪者の任に当たるべき生者のもとを繰り返し訪れるという話型は人類の発生と同じだけ古い。あらゆる文学の中にその話型は繰り返される。
　ここまで読んで、もう予感された方も多いであろうが、『冬ソナ』と酷似した説話後世をもつものの一つに『羊をめぐる冒険』がある。
　「鼠」は「僕」が正しく弔うことに失敗した死者である。
　だから、彼はきちんと死に切ることができない。それゆえ、「鼠」は「僕」に向けてさまざまな不思議なシグナルを送ってくる。そのシグナルを受け止め、「鼠はいったい僕に何を言いたかったのか？」という問いを自らに向ける。自分にできる限りの努力を通じてそのメッセージを聴き取ろうとするとき、「正しい喪の儀礼」は執行される。
　けれども、もちろんそのメッセージが何を意味するのか、「僕」には最後まで理解できない。わかるのは「それが何を意味するメッセージであるのか理解できないが、それがメッセージであることだけは理解できるようなメッセージ」を送ってくるのは死者以外にいない、ということである。

　さて、僕のホームページには葬式の話があって、納骨の話があるが、別にお墓の話をまとめようとは思わなかった。

　ところが、フジテレビの「これって変ですかー！？」から依頼されて富山のお墓について調べなければならなくなり、いろいろ調べた。そしてせっかく調査したことを書いておこうと思う。

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　フジテレビからの質問は派手な結婚式に絡めて、富山のお墓はすごく大きいのではないか、ということだった。つまり、富山の人は何でも大きくしたがるのではないか？という疑問だった。

　結婚式と葬式との関連はあるのかと思うのだが、まあ、どちらも黒い礼服を着て行われるし、どちらも滞りなく進行することが要求される。「結婚は人生の墓場」というのは世界共通の認識だろう。

　とりあえず調べたことと知ったかぶりで書いてみる。基本的に富山の、しかも浄土真宗のお墓しか知らないでの宗派や土地柄によって大きく異なるかもしれない。どこかで民俗学者が立派な本を書いているかもしれないが、分からなかった。

　結局、フジテレビの番組の第１回に蒲鉾の話は使われたけれど、お墓の部分は無視された。まあ、初回からお墓でもないとは思っていた。そして、98年の10月に始まり、翌年３月には終わってしまった。谷村新司と三宅なんとかが出ていた番組だから見た人もいると思う。

　当初は、そうした事物と県民性などを絡めた番組にするつもりだったようだが、作っているうちに「伊東家の食卓」と変わらない、裏技番組に成り下がった。

　ディレクターが富山まで来て、いろいろ話したのに！という思いもある（ネットに文章を書いていると色々と問い合わせが来ては無視されるということが実に多い）。何よりも参考に残しておけば、また役に立つこともあろう。

　面白かったのは『日本石材工業新聞社』（0564-31-2100 愛知県岡崎市上佐々木町字鹿乗２１－３）というのがあったことだ。いろいろな業界紙があるものだと感心した。【令和元年の神明社の大改修で岡崎が日本三大石都で新しい狛犬の一大産地だと知る】

　さて、富山のお墓は確かに大きい。大きいのが第一の特徴である。しかし、これは浄土真宗の影響の強い北陸に共通である。どの県も仏壇が大きいのだが、富山の方がなべて大きいといえる。富山の仏壇は「高岡仏壇」（高岡と県東部）と「金沢仏壇」（金沢に近い県西部）に分けることができるという。前者は金具を使った装飾が多く施されている。後者は蒔絵の装飾が多く、金具を一切使っていない。

　仏壇の特徴を書いておけば、京仏壇が黒塗りでほっそりしていて華奢なのに対して、富山の仏壇は金箔がいっぱい使ってあって、派手である。これは金沢仏壇も同じなのだが、富山のには茶色い金具がいっぱい付けられている。本当に機能とは関係のない部分に付いている。

　

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　富山のお墓の大きい理由は土地が余っているからだが、「雪深い土地で豪雪時にもお墓が埋もれてしまわないように」とか「立山連峰にならって」という人もいる。実は富山の墓は地上納骨といって、納骨堂にあたる部分が上に出ているからで、他の地方は地下納骨といって低い。この理由の一つに骨壺の大きさがある。骨壺自体が大きいのだ。富山では火葬した骨（土葬は北陸では皆無に近いが、綿貫衆院議長の家などは神主で土葬だった------最近は土地がなくて土葬は神主でも少ないという）をほとんどそのまま詰めるからである。これは当然だと思っていたのだが、他の県では一部だけを詰めて、他は処分してもらうようだ。

　骨壺自体が大きい上に大家族が多かったのでお墓自体が大きくならざるを得ない。

　実際、うちのお墓にはかつて別の親戚の骨壷がたくさん入っていた。

　ただの見栄ではない。

　コピーライター・青山直人さんのコピーに「死んでも住みよさ日本一」というのがある。

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　シモーヌ・ド・ボーヴォワールの『おだやかな死』（紀伊國屋書店）は70歳になってガンになったお母さんの死を描いた名作でお母さんの体を見てショックを受けるところなど大好きな本なのだが、死後に大変な問題が起きる。

　私たちは大変な難問にぶつかっていた。私たち一家はペール・ラシェーズ墓地に永代墓所を持っていた。私の曾祖父の姉にあたるミニョ夫人という人が百三十年前に買ったものだった。ミニョ夫人はそこに葬られた。祖父、その妻、その弟、それにガストン叔父、父、みなそこに眠っている。すでに一杯で、余地がなかった。このような場合には一時仮の墓にいれておいて、前に葬られているひとびとの骨をひとつの棺の中に集めた後、一家専用の墓穴の中に埋める。

　要するに、骨がいっぱいで、お母さんの骨が入らない状態になっていた。一時は霊柩安置所に保管することになり、妹は嘆くのだが、「私たちは自分自身の埋葬の総稽古に立ち合っているのだった。不幸は、万人に共通のこの冒険を、各人が単独で生きるということである」と述べている。

　岩下志麻が出た『お墓がない！』という映画は現代日本のお墓事情を教えてくれる。

　イタリアでも『ロザンナのために』（アメリカ映画）という映画が作られている。ジャン・レノが出た映画だが、奥さんのロザンナが余命幾ばくもなくて、幼くして亡くなった娘の墓の横に埋めてくれという。ところが、墓地にはもう三つしか空きがない。そこでマルチェロは村人を一人たりとも死なせまいと、交通整理や重病人への献血など涙ぐましい奮闘を始める。子どもがからかって自殺のマネをし始める。墓地の隣の土地を持つ富豪はジャン・レノやロザンナとの昔からの因果があって、手放さない。そこに誘拐事件の犯人が刑期を終えて出獄してくる事件があって…というストーリーだ。

　幸い、ボーヴォワールや『お墓がない！』や『ロザンナのために』とはまるで違った世界が富山には残っている。

　とはいえ、2010年ころから、お墓が議論されるようになった。少子化で墓を守る人がいなくなったからだ。「墓じまい」という言葉や合葬などという話が聞かれるようになってきた。うちだって心配になってきている。富山でも「葬儀終了」という言葉がおくやみ欄に載るようになったし、家族葬も増えてきた。

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　外国には土葬があって、さらにヨーロッパにはカタコンベがあっておどろおどろしい話だと思っていた。遺体に対する感覚がまるで違うのだが、この疑問が養老孟司の『旅する脳』（小学館）に書いてあった。さすがに解剖学者である。

　パリの地質は石灰分が多いため、アルカリ性で骨が溶けにくい。普通に葬ったのでは、墓地がすぐにいっぱいだ。古い骨は掘り出して積んでおけば、その分土地が空く。自然条件と人間の事情がつながった結果が、パリの骸骨である。　日本は酸性土壌が多いから、１００年もすれば骨はきれいに溶けてしまう。先祖を拝むのも墓石や位牌になるわけである。そう言えば日本の幽霊は半透明で足がなく、西洋怪談では“ドラキュラ”のように現物がよみがえる。なるほど、と思う。

　ヨーロッパでも北のほうには、また違った埋葬文化がある。古いゲルマンの習慣の名残で、王侯貴族の遺体は３つに分けて葬られた。心臓と、それ以外の内臓は別々の容器に入れ、残りの遺体は普通の棺に。ウィーンのシュテファン大寺院の地下には、19世紀の末ごろまでこの風習を守っていた、ハプスブルク家の人々の内臓入れが今もある。パリのサン・ドニ教会には、フランス歴代国王の棺が安置されている。興味のある人は一度行ってみてはいかがだろうか。

　しかし、21世紀以降のアメリカ映画を観ていると土葬か火葬か迷う場面が出てくるようになった。火葬の方が衛生的だと思われている。

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　富山のお墓の納骨室はほとんど地上に設けられる。他県では地下に納骨室を設けるのだが、これは多雨多湿の土地柄だからと考えられる。

　墓相を見るという「お墓博士」に設計してもらった親戚がいたが、これが地下式だった。そのために、地下に入って納骨しなければならず、非常に不便だと思った。「お墓博士」の何でも分かっている、真理は自分にある、という態度にも腹が立ったが、その後、その家族は不幸が続いた。今度、見かけたら殴ってやりたい。これは冗談ではない。

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　業者に聞いたら、地上に納骨室があるのは「陸（おか）カロート」という。当然、地下にあるものは「地下カロート」というのだが、業者も「カロート」が何なのか知らないので調べてみた。

　「カロート」というのは「かろうと」で「唐櫃」、つまり「からひつ」が訛って「かろうと」となり、地方によって「かろうど」「かろと」とも言っているようだ。

　「からびつ」とは元々脚のついた「ひつ」のことで、そのうち遺体を入れる櫃になり、納骨室にも使われるようになったようだ。

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　さて、陸カロートの納骨室は（多くが）観音開きになっている。うちの昔のお墓は四角い窓のような石板を取って納骨するタイプだった。

　お墓の内部には棚がついている。小さなお墓にはもちろん、つかない。今度のお墓は百年以上はもつようにたっぷり空間が取ってある。

　これも調べるまで知らなかったのだが、他県では地下カロートにそのまま散骨して先祖の骨と一緒にしてしまうようだ。

　富山では骨壺ごと入れるのが大きな特徴である。

　こうしてお墓はどんどん大きくなっていく。

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　考えてみれば散骨して一緒くたにしてしまうというのは骨に人格を認めていないことになる。お墓が重要になってきた背景には骨に人格を認めた浄土宗以降のことだ。

　「高野聖」が遺体や遺骨を大切にする習慣を広めたともいう。

　骨をばらまく習慣は最近、日本でも流行ってきたが、葬制とすれば結構古いものである。

　蛇足だが、お寿司屋でご飯のことをシャリというがこれは「舎利」から来ている。「舎利」というのは骨のことである。「仏舎利」は釈迦の骨（や髪）を指す。ご飯の色が灰白色で骨に似ているから生まれた隠語である。

　そうすると「しゃれこうべ」というのは「舎利＋頭（こうべ）」だと思って喜んで調べてみると「晒れ頭」から来ていた。シャレにもならなかった。

　最近は散骨などの方法もあってお墓を持たない人も増えている。有名な人では寺山修司が『墓場まで何マイル？』に「私は肝硬変で死ぬだろう。そのことだけは、はっきりしている。だが、だからと言って墓は建てて欲しくない。私の墓は、私のことばであれば、充分」と書いている。

　葬式もお墓も何もいらないという人がいるが、成仏できそうもない気がする。自分はいいが、出てこられてた方は迷惑だ。

　「なんにもいらないばあさま」　谷川俊太郎

　なんにもいらない　ばあさまがいた
　いえはいらぬと　ちかどうぐらし
　きものはいらぬと　ふゆでもはだか
　かねもいらぬと　まんびきばかり
　じぶんもいらぬと　あっさりしんで
　しぬのもいらぬと　またいきかえる

　墓が大きいといっても県内には違いもある。

　富山県は呉羽山を中心に呉東と呉西に分けられるのだが、お墓は「呉東型」「呉西型」「富山型」に大別できる。

　「呉東型」が最も大きい。大山町には十尺四方（３メートル四方）のお墓があるそうである。お墓の上部に載せる仏石（ほとけいし）の大きさは平均一尺三寸角以上だという。

　「呉西型」がこれに次いで大きく、仏石の頭部が陣笠の形をしているのが最大の特徴である。

　「富山型」は最も小さくて仏石も四角である。

　なお、この仏石の部分が本当のお墓部分でそれより下の部分は本来は地下にあるべき部分だという。

　うちの場合、新しいお墓の横に古いお墓の仏石が置いてある。そうして引き継ぐのだと言われた。

　　　墓　　石垣りん

いつか裸になって
骨だけになって
あの家族風呂のようなところへ。

みんなが露天風呂はいいと言う
たしかに先祖代々
屋根のないところへ入っていった。

あたたかいに違いない。

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　うちの新しいお墓は大きいが陣笠のようにはなっていない。富山の業者に任せたことも折衷型になった原因かもしれない。

　新しいと思ったのは、カロートにステンレスで通風口が付けられていたことで、蟻が入らないようにメッシュ状になっている。納骨室前に水返しがついていたり、湿気や雨に対する防備がなされている。

　父親は墓場の隅にあるので嫌いだったようだが、南向きで陽当たりがいい。古いお寺に苔むしたお墓が並ぶのは伝統を感じていいが、湿度が高くて日照時間の少ない富山であのようなお墓だと納骨室は湿気で大変なことになるだろう。

　「墓相」というのは、いい加減な「お墓博士」の例から分かるように、こり始めればキリがない話である。最近は風水学がブームになっているから気にする人も増えてきたと思う。しかし、長く使えて湿気の来ないお墓の方が合理的だと思う。ピラミッドを建設した王様たちは永遠の命を得たつもりだったろうが、どんなにお墓を研究しても永遠の命は、永久の繁栄は生まれてこない。

　仏石の前に石で作り、前をガラスにした小さな箱がついたが、これは蝋燭が風で消えないような工夫である。まだ普及はしていないから少し自慢できる。

　お墓の横に卒塔婆が並ぶところもあるが、富山ではあまり見かけない。

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　土地代は１０万以下だったから都会の人にはうらやましいことだと思う。

　しかし、建てるのに２００万かかった。知人だったので随分安くしてもらって、だ。

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　値段が決まるのは大きさよりも石の素材にもよる。うちのは糠目（ぬかめ）といって糠のような細かさをもった（当然、固くて長持ちするし、高くなる）石材を使ってある。

　富山の特徴の一つが、黒御影石を使うことが少ないことだ。どちらかというと嫌われている。

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　葬式も問われているが、お墓も問われている。

　寺山修司は絶筆になった散文詩「墓場まで何マイル？」で「墓は建てて欲しくない。私の墓は、私のことばであれば、充分」と書いた。

　他人の家のお墓に入るのは嫌だ、両親と一緒のお墓にという女性も増えてきたという。でも、その子供たちはどこに入ればいいのか、と思ってしまうのだが、とにかく色々と考えなければならない状況になっている。

　宗派や宗旨を問わない納骨堂も増えてきた。費用が自前で建てる場合の半分以下で済むこともあるし、後継者がいない人にも好まれているという。

　海外からでもお墓参りできるインターネットのお墓もある。こんなことでお参りになるのかという人もいるが、生きている人間が死者に何かを伝えることはどうしてもできないことで、むしろ生者の気持ちの整理だろうから、インターネットで十分なのである。

　谷中、花と墓地どの国においても、墓地は美しい。東京の墓地も例に漏れない。しかし、私の見た限りでは、ほかの国では見られない特色がいくつかある。第一は、花の季節になると町中でもっとも賑やかな場所となることである。まるで盛り場。死者と生者が交流して花を楽しんでいるといった感じである。日本人ではないから、これは神道の影響であるといった差し出がましいことは言えないのであるが、なにかそういう関連があるような気がする。アメリカの開拓時代にも、亡くなった者を裏庭に埋葬する習慣があった。幾分似ているような気がする。とにかく桜の花の満開の時は、賑やかな谷中墓地は独り歩きに理想的な場所であった。
　　　　　サイデンステッカー『谷中、花と墓地』（みすず書房）

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　明治初期にフランスから長崎に宣教にやってきたド・ロ神父が「日本の墓は暗い。天国はもっといいところだ」と語ったように日本の墓、墓場は暗くてジメジメしている。外人墓地は観光地になるくらい明るい。

　作家の花田清輝によれば、パリのペール・ラシェーズ墓地【ピアフ、ショパン、ビゼー、プルースト、マリア・カラス、モディリアーニなどが埋葬されている】に二つのお墓が並んでいて、先にできた墓にはこう書いてあったという。「ジャック・ジュラン--お前を待ってるよ！」。そして、横の墓にはこう書いてある。「ジャクリーヌ・ジュラン--はい、まいりましたよ！」。日本では別墓にしてくれという夫婦が増えているのに…。

　イギリスの漁師さんたちのお墓は横棒がやたら長い十字架だということだ。これは漁師たちがいつも両手を広げて漁獲の自慢をしていた名残りだという。

　日本のお墓にも様々な形のが増えてきた。

　洋式のが多くなったし、和式でも個性的なものが増えてきた。

　僕の好みは小津安二郎監督のお墓のように「無」なんて書きたかった。小津は日中戦争で召集され、戦場を体験した。南京に駐留していた時、古寺の住職に書を頼んだ。それが「無」の一字だった。何枚も書いてもらい、友人たちにも送った（『ココロニモナキ　ウタヲヨミテ』朝日ソノラマ）。小津は映画同様、律儀な人で還暦の日に亡くなった。まるで死を覚悟していたようだ。

　作家の森博嗣は「絶対に真似をしないでください」とか「特別な許可を得て生きていました」と書きたいという。

　村上春樹は次のように墓碑銘をつけると書いていた。

　村上春樹　作家（そしてランナー）
　一九四九－二〇＊＊
　少なくとも最後まで歩かなかった。

　そんな風に作りたかったが、結局、ごく普通の富山の伝統的なものにした。もちろん、「先祖代々之墓」というのが明治以降の虚構だと分かっているが、そんなことを言おうものなら、母子戦争になってしまう。

　永井荷風は61歳のとき、日記に遺言状をしたためて「一、墓石建立致スマジキ事」「一、住宅ハ取壊スベシ」、遺産や蔵書類はどこにも寄付するな、とも書いた。そんな潔い死に方もあるが、僕はごく普通でいたい。

　ヨシタケシンスケの『このあと　どうしちゃおう』には「こんなおはかをつくってほしい」では、ベンチがた、なぞなぞがいっぱいかいてあるがた、トランポリンがた、ぶらさがれるがた、とうだいがた、すばこがた、きねんしゃしんがとれるがた、つみきがた、きょうりゅうがた、みかんができるがた、もっきんがた、ボールがた、おおがたすべりだいがたが考えられている。

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　お墓ができあがって、自分の名前が赤く刻まれているのを見ると、これから続くであろう家族のご先祖様になるのだという実感が沸いた。子孫に恥じない先祖にならなければならない。後で、柳田國男の『先祖の話』を読んだら、ゴム長をはいて、半纏を重ね、白髪の垂れている大工さんが、自分は死ぬと「御先祖様になる」と言っているのに印象づけられた話が出ていた。彼には死後に行くべきところがはっきりと分かっていたのだ。

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　凡人には、とかく、あの世のことは分からず、保守的にならざるを得なかった。

雲雀あがれ吾より父の墓ひくき---寺山修司　未刊全句集『浪漫飛行』

※子どもがキヤノンに勤めて富山に帰りそうもないので、墓と仏壇がどうなるか、いきなり心配になってしまった。なるようになる、とは思えるが、迷惑をかけることは絶対避けたい。

※リチャード・ニスベットの『世界で最も美しい問題解決法』（青土社）に墓石に関する議論が出てきて驚いてしまった。「日本人におおむね、弁証法的な回答をする例が小尾勝ったのは、彼らがより賢明であることの表れだと私たちは考える」といい、「アメリカ人は年齢を重ねるにつれ弁証法的になっていき、日本人はそうはならないという事実は、次のように説明される。日本の若者は、日本の社会が社会的な文脈に注意を向けることを重視するため、アメリカ人の若者よりも対立を賢明にとらえる。彼らは、対立を回避し緩和する方法を明確に教えられている。対立は、西洋よりも東洋において、社会の構造により大きなダメージを与えるからだ」という。どうだろう？

　　　敵　堀口大學

【…】
つぎ　つぎ敵は滅んだ
天のお裁き
天罰覿面（てきめん）

今
ながらえて八十歳
無病息災
やっとつかんだ晩い春
墓地でも買おうか！

■映画「お墓がない！」

■「これって変ですかー！？」第一回放送

※横田睦『お骨のゆくえ』（平凡社新書）が大変面白かったことを付け加えておく。

第1章誰にも負けないデッカイ墓をつくってみよう(「権利」と「自由」の旗の下に;あなたのデッカイ墓をつくるためにはほか)
第2章火葬技術大国ニッポンの光と影(かくして火葬場は進化した;火葬炉にみる技術立国ニッポンほか)
第3章葬送の名脇役たち(お骨は一体どこにゆくのか;エンバ－ミングとはなにか? ほか)
第4章墓地が公園になった日(お墓「今昔物語」;公園墓地の誕生ほか)
第5章葬送は進化するか?(上に延び、下に潜る現代の墓地;納骨堂研究ほか)

※和風か洋風かという問題を霊園などの情報誌を発行する六月書房（東京）が2005年２～４月に実施した。東京、神奈川、埼玉、千葉の１都３県の民間霊園６０か所で、２００２年以降に建てられた約４万基の墓について洋型か和型か調べた。その結果、８割以上の５１か所の霊園で、洋型墓石の数が和型墓石の数を上回っていることがわかった。また、６０か所の平均値は洋型６３・９％、和型３６・１％だった。逆に、和型が洋型を上回っていた霊園は、千葉３、埼玉１の計４か所にとどまった。　

※2015年頃には「葬儀は終了」という新聞の案内が増えた。その後、「墓じまい」という人の話をよく聞くようになる。

※2017年に楽山先生の一人娘が結婚することになったのだが、墓じまいをしなければならなくなったという。富山の場合は仏壇の問題もあって、僕も勢いで買ってしまったが、子どもたちの負担にならないか、今になって悩んではいる。

※2018年９月19日の「クローズアップ現代＋」は「相次ぐ“縁切り死”　愛する人が何も告げず」という放送があった。